Ella Fitzgerald: Something to Live for
Ella Fitzgerald: Something to Live for
20世紀後半のネオ・ポップの歌姫たちは性的魅力を増しており、うち何人かは圧倒的な歌唱技術を見せもした。その際立った例として挙げられるが、ヘリウムを吸い込んだかのようなファルセット(これで世界中の熱烈なファンがイチコロになる)を武器にするマライア・キャリーや、大仰な涙声のクライマックスがお得意のセリーヌ・ディオンだ。しかし、もっと以前には、ファースト・ネームだけで世間に通じる大御所シンガーの元祖と言える1人の女性がいた。彼女の歌声を少しでも耳にすれば、現在の歌姫たちなど、たちまちかすんでしまう。そう、エラが口を開けば、完ぺきな音程で輝くような歌声が飛び出した。何オクターブ上下しようとも、その美しさが損なわれることはなかったのだ。よく通る声質と明瞭なフレージングは、あたかも楽々と歌っているかのような印象を与えるが、こういった歌い方は真の芸術的才能の持ち主にしかできないものである。
本作は、もともと公共テレビ放送の『American Masters』シリーズのために制作されたもので、構成が非常にしっかりとしている。脚本・監督を担当したシャーロット・ズウェリンの手際のよさが光ったところだ。エラ・フィッツジェラルドの死後4年近くを経ての制作だったため、“ファースト・レディ・オブ・ソング”と呼ばれた彼女の豊かな歌声やレパートリーを散りばめることで、全編の連続性が保たれている。同時に、各種インタビューから抜粋したコメントがうまく組み合わされ、それぞれが入り混じった状態になりながらも説得力を発揮している。エラが生涯慎み深く、プライバシーを重んじたことを考えれば、ここで聞けるコメントは注目に値するだろう。一方、初期のパフォーマンスの貴重な映像や、もっと後のテレビ出演時の映像が、エラの描いた軌跡を浮き彫りにしていく。大恐慌時代のニューヨークに始まり、アポロ劇場でのスカウトへ、そして傑出したポップ / ジャズのスタイリストへ。その道のりは、巡礼の旅と呼ぶにふさわしい。
ナレーションはトニー・ベネットが共感たっぷりに担当。さらに、エラの伴奏を担当した偉大なジャズ・ミュージシャンたちが何人か登場し、さらなる愛情と洞察を添える。だが結局のところ、もっとも雄弁なのは、全編に流れまくるエラの歌声だ。彼女が得意としたガーシュウィンの名曲のタイトルを借りて言うなら、まさに「ス・ワンダフル」!(Sam Sutherland, Amazon.com)
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