歌劇《トスカ》

歌劇《トスカ》

歌劇《トスカ》

ミラノ・スカラ座の底力をまざまざと思い知らされるディスクである。いささか乱暴な比喩かもしれないが、オペラをケーキにたとえるならば、もっとも重要なことは、トッピング(主演歌手)の豪華さを競うことではなく、その下にあるスポンジ部分(オーケストラ、合唱、あるいは舞台を支える劇場スタッフ)がしっかりとできていることにほかならない。見た目がいくらよくとも、さすが老舗の味とうならせるためには、目に見えないスポンジがしっかりとできていなければダメなのである。このディスクはそれを証明してあまりある充実した音楽的内容を持っている。
マリア・グレギーナは、いま世界でもっともトスカを見事に歌い演じることのできるソプラノ。何事にも命がけ、体当たり的に役柄に没入し、もち前の豊かな声量と劇的な表現力で、劇場全体を魅了し、映像の前の私たちをも釘付けにしてしまう。マリア・カラスの豹のようなトスカに較べると、やや情けが深いキャラクターもそれなりに好感が持てる。レオ・ヌッチのスカルピアはやや人間的弱みや迷いを見せているところに、ステレオタイプな悪役に陥らない解釈の深さがうかがえる。サルヴァトーレ・リチートラのカヴァラドッシも堂々たる歌唱で、「妙なる調和」「星は光りぬ」といった聴きどころは、ヴォリュームのある響きと、伸びのある高音で、大いに満足感を与えてくれる。ルカ・ロンコーニの演出はさほど緻密ではないが、豪華さを失わず、しかも常套的に陥らない手堅いところがプロの仕事を感じさせる。
しかし、ここでの本当の主役は何と言っても指揮のリッカルド・ムーティ。第1幕のテ・デウムや第3幕の銃殺刑シーンなど、最近のムーティは随所で演歌的な粘りも意外と発揮するようになった。ここでも聴き手の感情移入をしっかり受け止めてくれる懐の大きさがある。スカラ座のオケは相変わらず素晴らしい。常に響きはしなやかで、しかも音に芯があり、超一流だけが備えることのできる風格に輝いている。プッチーニのような精妙な管弦楽で書かれたオペラでは、このようなオーケストラだけが、ドラマ全体を構成できると言えるだろう。2000年3月14~17日のライヴ収録。(林田直樹)

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